車
ジョンはギアをセカンドからローに入れながら、話しかけた。
「どこにつくと思う。」
助手席のサラは、わからなそうに首をひねった。
「とりあえず山のほうに行こうと思うんだけど、俺も決めてないんだよね。」
ジョンは気まずくなるのを避けて、考えておない言葉を吐いた自分に少し腹が立った。このいら立ちは眠気のせいなのだろうか。
「行きたいところあればいくけど。」
サラは答えない。
ジョンは、このデートを何としても成功させたかった。
ジョンは先日会社でいった飲み会へいった。そこで、店員として働いていたのがサラだった。今度のドライブに誘ったところ、すぐに返事が返ってきたのだった。
ジョンは青信号になるのを見て、発進した。ギアを変えながら、標示を見ると50キロ道路だった。
サラが何も答えないことを気にしていた。やはり自分が迷惑なことをしていたのだろうか。彼女は飽きているのだろうか。このままでは、まずい。
心なしか、スピードもあまり出ていない。
今日の予定は、どこか人気の少ない自然豊かな山の中を二人でドライブ。箱根のほうまで行って帰りにベイブリッジで夜景でも見ようかという計画である。あくまでもこのことは彼女には内緒だが、
「どこでもいいわ。」
優しくサラは答えた。サラは微笑んでいた。
「あなたの好きなところに連れてって。」
これが大人の余裕なのだろうか。とてもやさしい彼女を横目に、一気にトップギアに変える。
ジョンは、サラを誘った日のことを思い出していた。
同僚にいやいや連れてこられた飲み会。うまくいかない仕事。そんな中現れた天使。
振られること覚悟で声をかけた。今思えば、少し自暴自棄だったのかもしれない。彼女が誘いに返事をくれたときを、何度思い出したことか。
今となっては、もう一生寄り添っていたい。そう思える女性だった。
気づけば、自分の気持ちは最高点を通り越して、オーバートップギアだった。